それから色々とごねごねすること数時間。何をごねごねしたかは言わないけれど、いや、言えないけれど。 「――――すぅ、――――すぅ」 セイバーはすっかり泣き止んで、気を落ち着けたようで。今はこうして同じ布団の中、俺の腕を枕にして穏やかな寝息をたてている。 「――――」 噛まれていない方の耳を下にして、顔を横に向けてセイバーを見る。 「元気だなぁ……」 あれだけやって尚、ピン、と一房だけ己の存在を誇示するように立つセイバーの前髪。それを指先でなんとなくつつきながら、ぼそり、と呟く。 「おっ、と」 慌てて手を引っ込める。 「…………」 ……顔が赤くなっていくのが分る。 「……本当は起きているんじゃないのか、セイバー?」 続けてなにやら「ん、ぁは」と妙に熱っぽい寝言――本当に寝言か――を呟きだしたセイバーの寝顔に小さな声で問うが、勿論返事はない。 「えーと……」 お前ホームラン打ったのか、と己の胸と愚息に問うが、これまた返事はない。 「――――」 その後しばし思案すること数十秒。と、いつまでもこうやって嬉しいやら恥ずかしいやらの幸せ気分に浸っているわけにもいかない。窓から差し込む陽光は既に夕暮れを告げるその色に変って、遠くからは烏の鳴声や児童たちに帰宅を促す町内放送などが聞こえてくる。 「さて、と」 布団を捲り、自分の体を引き抜いて、けれどセイバーの体は外気に触れないようにしようとして――――視線が固定されることまた数十秒。目の保養と血液の消失と集中をしこたま行ってから立ち上がる。 おしまい
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