Paradise Lost Gothic、

 

/ マイナス 

 ――――誰かの未来、または胸の裡、ときどき過去


 赤毛のショートカットの女の子は、母親に良く似た笑顔で笑った。

「いつもね、お母さんが言ってるの。むかつく、って。お父さんにちかよらないで、って。お父さんもね、お母さんのこと、好きなのよ。だからね、むだなんだって。
 ……だからね、おばちゃん。おねがい。お父さんにちかづかないで、お母さん、きげんわるくなっちゃうから。お母さんのきげんが悪いとね、お父さんいじめられちゃうの。いつもはぎゃくなのに……だから、おばちゃん。やくそくしてくれる?」

 そんなものは無理な相談、と。
 女は、口答する代わりに――その子の小さなクビに手をかけた。

「け、ふっ」

 女が力を込める。咽喉を押しつぶすように、クビをねじ切るように、力を込める。女の子は苦悶の表情で息を吐く。顔が蒼褪める。血の気がひいていく。
 忌々しい。しんじゃえ、おまえなんか。
 心の中でそう唱えながら、死ね死ね殺してやる、唱えながら、何で何で何で、と問いながら、女は女の子のクビを絞める力を強くしていく。際限なく強くしていく。殺すつもりで強くしていく。だって、殺すのだから。

「…………」

 女が気がついたとき、女の子はぐったりとして動かなくなっていた。

「晴香! 晴香! 晴香ぁっ!」

 近づいてくるのは、憎い声? それとも、愛しい声?

 全然分からないから、女は哂った。気が狂ったように、哂い続けた。


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