「――嫌な色。見苦しい髪。切り落としてあげましょうか」 「結構です。これでも気にいってますから」 「その割には手入れをしていないように見えるけれど? 遠慮しなくていいのよ。切り落とさずとも、燃やせば、一瞬だから」 「その一瞬が、私には永すぎる。貴方の咽喉を切り裂くにも」 「野蛮な大口ね。この結界にしてもそう。下品で野蛮で、醜い。育ちが知れるわね。怪物さん」 「自分が醜いのは承知です。怪物と呼ばれるのにも慣れている。――事実、生前の私も、今の私も、怪物ですから」 「理解しているのなら話が早いわ。死になさい、怪物。知っているでしょう、怪物の最後は、決まって勇者に退治れるの」 「――勇者に退治されるのは貴女も同じでしょう。陰気で汚らわしく、民に忌み嫌われた魔女の貴女も」 「そうね。その通りよ、私たちは似たもの同士。けど知っているかしら、同属嫌悪という言葉を」 「知るも何も、今体感しています。――ですからいい加減に、だまりなさい。貴女の声音は、怪物の耳にも煩い」 「黙るのは貴女の方よ、怪物さん」 「二度同じ事を言わせるのですね。黙りなさい、魔女が。黙らずとも、直ぐに殺しますが」 「そのまま返してあげるわ、化け物」 「――」 「――」 口撃しあう二人。高まる緊張感に、張り詰める禍々しい瘴気にも似た魔力。気持悪い。怖ろしい。くそったれ。 「――」 じゃらん、という鎖の音。耳障りだ。頭に響く。ライダーが短剣を構えたのか。もう、意識が朦朧としてきている。 ――そう、心では思うのだけれども、 「ぐっ、えぇ」 また、血の固まりを吐き出した。 「げっ、ゔぇっ、ぇ」 口の中に残った血にむせそうになる。強い酸性の匂い。胃液も混じっているのか。逆流しそうになるそれらを、必死に口外に出そうとあがく、ことも出来ずに、このまま、死を、待つ、しか、ないの、だろう、か。 ――身体は既に、限界を超え。 近くのような遠くのような、曖昧な距離から爆発音や、コンクリートが砕ける音や、木材が燃える匂いや、血の匂いや、不快なものが届いてくる。 「……」 何時の間にかあいつ等の戦いの火蓋が落ちていた。戦況を知るすべもない。どちらが勝つのか、勝った後どうなるのか。その前に、俺は死んでしまうのだろうか。いや、このままでは、どの道、死ぬだろう。 ――何とか、ならないのか。 奇蹟でも起きない限り無理だろう。 ――例えば。 親父のような、正義の、味方が。 「……」 けれど親父は死んで、藤ねえや一成たちや、そして、俺も。 「……」 横たわる。 「……」 己の死期を悟り、群れから姿を消す動物が居るという。 ――誰かかが驚いたような気がした。 それが何だったのか、疑問に思う間も無く。 (――さ、く、) 全ての感覚が、消えた。 |