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 愛・サーヴァント

 

 リモコンでテレビのスイッチを消り、ふらりと立ち上がる。

「……疲れ、ました」

 呟く声は自分でもはっきりとわかるほどに弱弱しい。
 私は英霊。この程度の苦行には慣れている。けれど辛いものは辛い。
 この辛さの原因――今の私の身に起きている不調の名前は魔力不足。
 魔力。英霊――サーヴァントである私は受肉した肉体を持たない精神体
の命の源と言ってもよい魔力。
 いつもは体中に溢れんばかりに巡らされ、貯蔵されている筈のそれ。し
かし、今の私の体には巡る魔力も貯蔵された魔力の両方ともが殆どゼロ
に近い状態。歩くだけで精一杯。少しでも気を抜くと倒れ込んでしまいそう。

「……は、あ」 

 盛大な溜め息を吐き出しながら、深く思う。
 何故私がこのような仕打ちを受けなければならないのでしょうか、と。
 たかがどら焼き如きを食べてしまったぐらいでここまでしなくてもいいでは
無いですかと。
 それがサクラのだとは知りませんでしたと謝罪したのにと。
 そもそもサクラには忍耐力や寛容力が著しく欠けていると思いますと。
 隣に居た士郎に口移しで食べさせたのの何がいけないのですかと。
 そこから何時の間にかディープキスになっていたのは事故ですと。
 
 それなのに、しこたま殴られて士郎から引き剥がされた上に魔力供給ま
で限りなく下げられて。
 一体、サクラは私の何が気に入らなかったんでしょうか。
 どら焼きが有名な江戸前屋の物一つ300円もするからでしょうか。
 実はなんとなくサクラの物だなあという事が分かっていたのがばれたの
でしょうか。
 そもそもサクラには忍耐力や寛容力が著しく欠けていると思いますと、
思うだけでなく口にも出してしまったからでしょうか。
 頑なに拒否する士郎を怪力スキルを使って押さえ込み、半ば強姦に近
い勢いで食べさせたからでしょうか。
 事故だと思いながらも5分ほどキスを続けていたからでしょうか。と。

「……ふぅ」

 …………いくら思考を廻らしても答えは出ない。
 …………否、もう出ていますか。今の私の状態が何よりのサクラの答え
でしたね。

「……縁側ですか……座りましょう」 

 気が滅入った所為か、ついに歩るくのも億劫になってきました。
 髪の毛を尻に敷かないように気をつけて縁側に腰を下ろす。
 ……ふぅ、これだけでも少し楽になりました。

「……ん」 

 眼を瞑ってリラックス。季節は夏。差し込む日差しは暖かいと呼ぶには
少々高すぎるものがありますが、幸い今日は風が吹いているのであまり
気になりません。
 かさかさと、庭に植えられた木々や草花の葉を鳴らす音が風流です。

「ぁ……」

 くすぐったさに思わず声を洩らす。
 前髪を揺らして、頬を優しく撫でながら過ぎ去っていく風。
 揺れた前髪が鼻筋をかすめてむず痒い。頬に感じたその心地よい感触
は、彼の人の掌の感触に似て、酷く私の心を穏やかにする。

「士郎……」 

 自然と洩れでた言葉は弱った体から発せられたものとは思えないごそ
熱っぽい。

「し、ろう……」 

 あぁ、士郎。
 私は貴方を大切に思う。
 私は貴方を愛しいと思う。
 私は貴方と共に居たいと思う。
 それが己がマスター、サクラの気持ちを裏切る気持ちだとしても、決して
捨て去ることは出来ない。
 周囲に流され、己が意思を持って行動することが殆ど出来なかったこの
私に、己の気持ちを大切に、自ら行動することの意味と大切さを教えてく
れたのは貴方でした。
 女神の呪いを受け、ポセイドンに見捨てられ惨めに死んでいった私に、
再び誰かを愛する、欲する気持ちを授けたのは貴方でした。
 だから私は切に思う。
 何故貴方はサクラのことばかり見て私のことをしっかりと見てくれないの
ですかと。
 貴方は私がこんな気持ちでいることを知っているのですか? と。
 士郎が私のマスターなら、私はサーヴァントの文字通り、両名の命運を
かけ、時には手を取り合い、時にはこの身の全てを捧げてご奉仕―――
―ではなく、この身の全てを捧げて夜のお世話――――ではなく、この身
の全てを捧げて愛奴隷に――――――でもなくて! と、とにかく死力を
尽くして貴方を、ま、守るでしょうと。
 四六時中常傍に居て彼を守り――学校に行くときも、食事の時も、入浴
の時も――就寝のときも。
 稽古で互いを練磨し、苦難を乗り越えて心は通い合い、体が通じ合い―
―――。
 投影を援護に、紅い閃光を、銀の閃光を、鉛色の暴風を悉く躱し颯爽と
戦場を駆け抜ける私。
 そして聖杯で受肉し、人として、第二の生を貴方と共に生きる。
 見上げる程に成長した彼の大きな腕に包まれながら幼い子供たちの笑
い声を聴く。
 ……もしそうなれば、それはなんて幸せなことなんでしょう――――と。

 ――でも、それは…………――――。

「あ――――」

 いけない、少し入り込みすぎた。
 頬をぴしゃりと叩いて気合を入れる。力は出ないけれど。

「……それにしても、私は……何ということを考えて…………」

 こんな都合の良い夢物語など考えてもしょうがないのに。
 ……そんなことなどいまさら確かめるまでも無く理解している筈なのに。
 ……こんなこと、考えれば、夢想すればするほど自分が惨めになるだけ
だと体験している筈なのに。
 なのに、それをどこかで否定する自分が居る。
 拒否する自分が居る。
 それは失ってはいけない気持ちだと、ライダー……メドゥーサという一人
の女を形作る要素として必要不可欠なものだと。 

 ……あぁ、駄目だ。やはり私にこういうのは似合わない。
 穏やかになっていた思考が今は乱れて無茶苦茶だ。。
 せっかく疲労すら忘れて士郎のことを想って心地よい気分になっていた
のに、何故このようなことになってしまったのだろう――――と、考えるま
でも無く、脳裏に一人の修羅の顔が浮かんだ。

『罰として今日一日は魔力供給は最低限のみですっ!』

 ――――そうです。
 あの顔を忘れるはずがありません。
 そうです。このように思考が乱れてしまうのはサクラからの魔力供給が
足りないからです。絶対にそうです。そうに違いありません。もうこうなっ
たら士郎に助力を仰ぐしか私が懊悩から払われる術はありません。これ
は名案です。決定です必然です運命です。
 そうと決まれば今すぐ行動。幸い士郎の居場所はすぐに判る。

「――――――――」

 九割九分一方的に繋いだパスに精神を集中をして士郎の居場所を探る。
 ちなみにいつどうやって繋いだかは内緒です。それを知ったらサクラが
怖いと言いますか、士郎の人間の尊厳に係わると言いますか……。
 とにかく秘密なのです。

「あ―――――」

 良し! 発見しました。
 しかもいい具合に土蔵の中での家電の修理をしているようです。
 この季節、土蔵に近づく人物はまず居ません。士郎を除いて。ですから
誰にも見られたり悟られることは――――ふふふ、何だか力が沸いてき
ました!

「は――――っ!」

 そしてその力そのままに腕を支えにして、気合を入れて腰を上げ――
――ようとしてふらっと来ました。あう、先ほど力が沸いたと思いましたが
……これは急がないと本当に倒れかねません。
 
 戸に捕まって立ち上がる。
 ずるずると両脚を引きずって移動。砂漠を彷徨う遭難した冒険家のよう
にふらつきながら、一分かけてようやっと土蔵の入り口にたどり着く。

 そして中を覗きこんで――――居た。
 地面に胡坐をかき、両足の合間に電子レンジを置いて修理に没頭する
士郎が。

「士郎」
「ん――――? どうしたんだ、ライダー。俺に何か用か?」
「……士郎、助力してくだい。サクラが修羅で魔力が足りません」
「へ?」

 私の言葉の意味が理解できないのか、頭の上に疑問符を浮かべて首を
傾げる士郎。
 動きにつられて顔を見遣れば、暑い土蔵の中で作業をしていたためか、
暑さと熱さで頬が上気し、前髪が額に張り付き、頬や首筋には幾条もの汗
が流れていた。
 視線を下げれば、大きく胸元が開いたシャツから覗く逞しい体。

 ――あぁ、何だか凄くエロいです士郎。

「――あぁ、何だか凄くエロいです士郎」
「えぇ!?」

 いけない、思わず声に出してしまったうえに舌なめずりまでしてしまった。
 これではまた士郎に「ライダーはどじだなあ」と言われてしまう。……いえ、
別にそれが嫌という訳ではないのですが、その……何と言いますか、その
台詞を言う士郎の無邪気な笑顔は反則と言いますか、そのときにサクラが
向けてくる視線に篭った殺意が怖いとかそういうことではなくてですね……
あぁもう、この話はもういいではありませんか!
 疲労と興奮でまいっている頭をこつん、と叩いて思考をクリアに。
 そして何時の間にか立ち上がり、何故か壁まで後退していた士郎の元
に幽鬼然とした態で歩み寄り、両腕で肩をがしっと押さえつけ、本来の用
件を再度伝える。

「士郎、私を貴方の愛奴隷にしてください」

 ……間違えました。
 わざとじゃありませんよ? それにあながちこれも間違いではな―――
―げふんげふん。

「すいません、間違えました士郎。愛奴隷ではなくて肉……セッ……魔力
補給に助力していた――――士郎?」
「―――――――――」

 何故か士郎は鼻血を出して気絶している。
 ……はて、一体何故に?
 まあいいでしょう。本当は合意のう上で行いたかったのですが、私はライ
ダー。寝てるモノの上に載るのは大得意なのです。このままでも問題あり
ません。

 力の入らない体に鞭打って士郎のシートの上まで運び、横たわらせる。
 途中よだれが垂れてしまいましたが仕様です。気にしない。

「……はぁ、やっと」

 いただきます。と両手を合わして。ズボンに手を掛けて――――


































『は―――? 士郎が土蔵で熱射病と脱水症状と過労で死にかけてた?』

 

 ……やり過ぎました。てへ。





 

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