シロウ&シャーリー

 

 

 衛宮士郎。
 職業:正義の魔術使い(自称)兼料理人。
 今年で二十ほにゃーん歳。浮いた話にはからっきし縁が無い――というか、上手くすればここまでの人生の中で最低でもニ度ほど結婚できるチャンスはあったのだが、生憎と本人にはまったく自覚が無い。
 彼は今日も今日とて自分が持つ小さなレストランで働きながら、夜な夜な魔術の鍛錬に励む。

 ――そんな彼に、最近新しい家族が一人増えました。





「え」

 なじみの客は思わずそう呟いた。

「今日はもう終わりなのか」
「そう、今日はちょっとな」

 何時ものようにアフタヌーンを士郎の店でうだうだ過ごそうと思って来てみれば、店主は店じまいをおっぱじめているではないか。
 こんな早い時間にどうして。
 訳がわからずぼへっと立ち尽くしている客の前で、士郎はてきぱきと閉店の準備を進めていく。

「っつーわけで、はい。皆も出た出た。今日はもう終いだ」

 窓に飾っていた花を店内に終い、手をパンパンと叩いて店の中に残っている客に声をかける。

「えー、もう?」
「早すぎるんじゃねーか?」
「俺、注文したばかりなんだけど……」

 あちらこちらから困惑は不満や抗議の声があがる。
 が、士郎はそれを意に介さずほれほれ、と客のケツを上げさせる。
 まだ料理を食べ終わっていないー! と頑なに帰るのを拒む客に代金は要らないからと声をかけ、店の前で立ち尽くしていた客にそんなところでぼうっとしてたら轢かれるぞー、と声をかけ、時には包丁をちらつかせながら客を帰していく。

「ありがとー。また明日よろしくな」

 なんなんだまったく。今来たばっかだぜぇ。
 ぶつくさ言いながら帰っていく客に挨拶する士郎の顔はとてもにこやかなものだ。
 今日は前々から計画していたあることを実行する予定なのだ。
 その計画とは、最近士郎の新しい家族となった少女に日ごろのお礼と親しみを込めてプレゼントを贈る、という粋なもの――なのだが、士郎に年頃の女の子が貰って喜びそうなものが分かるはずもなく。だからといってそんなことを相談できる女性の友人――年頃の女性の感覚が理解できそうな――も居ら……

「……ハハ」

 ず、当人に何が欲しいか聞くのも何だか憚られるわで、今日は午後をいっぱいに使って何とか自分で良さそうな物を探すことにしたのである。
 ちなみに何故士郎が笑ったかというと、脳裏に士郎の知り合いたる数名の――一癖どころか二癖三癖ある女性たちの顔が浮かんだからであるのだが、それでどうして笑うと同時にこめかみに変な汗が流れたかに関しては士郎の心身の安全のために割愛させていただくことにする。





 途惑うことや驚くことが多かったシャーリーだが、士郎の家での生活にも大分慣れてきた。
 今日も士郎が仕事に出かけたあと、手際よく洗濯とリネンをこなし、リビングと自室、書斎、廊下の掃除を終わらせた。本当は風呂場も掃除する予定だったのだが、それは士郎が帰ってきてからやると言って聞かなかったのでその言葉に甘えることにした。
 そういうわけで、庭の手入れも終わったので今は紅茶を淹れて一休み。

「―――うん」

 ずずず、と啜って、ほっ、と一息つく。
 小さな体に大きすぎるソファーにちょこんと腰掛けて、シャーリーは微笑んだ。今日はなかなか上手に淹れられた。口に含んだ瞬間、いっぱいに広がる芳香と仄かな苦味、そして上品な甘み。
 まだまだシロウさんには敵わないけれど、何時かは飲んだあとに吃驚するぐらい美味しく淹れたい―――とシャーリーが密かに燃えていることを士郎は知らない。

「―――」

 ずずずず、と啜って、ほっ、と一息つく。
 ほんのりと暖かくなったシャーリーの頬を、換気のために開けていた窓から吹き込んだ風が撫でていった。
 心地よさにシャーリーは目を閉じる。
 腰掛けているソファーの柔らかさも、差し込む太陽の光も、庭で囀る鳥たちの声も、今の風も、紅茶の味も、暖かさも、なにもかもが心地よい。
 思わずこのまま眠ってしまいそうになりながら、シャーリーは思った―――今日はなんていい朝なんだろう。

「だけど……」

 もう朝、と呼ぶには遅すぎる時間。もうすぐお昼どきだ。
 閉じていた目を開け時計を見て、シャーリーはティーカップをテーブルの上に置いた。残念だけれど休憩は終わりにして、そろそろお昼の用意をしないといけない。

「今日は何ししよぅかふぁ―――んっ」

 シャーリーはカップを手にソファーから立ち上がって、名残惜しいソファーの柔らかさに思わず出そうになった欠伸を口を閉じて噛み殺した。

「〜〜〜っ!」

 誰も見ている者は居ない。けれどバツが悪くなって、恥ずかしくなって、シャーリーは目尻に浮かんだ涙をエプロンで拭いて、そのままそのエプロンで顔を覆ってしまった。
 何やってるんだ、わたし。
 仕事中なのに。だらしない。はしたない。

「うぅ……」

 赤くなった頬をエプロン越しに両の掌で包みながら、シロウさんが居なくて良かった、とシャーリーは思った。
 勿論欠伸くらいで気にする士郎ではないけれど。

 シャーリーが昼食をとったのは結局それから三十分後のことだった。
 ちなみにメニューはコーニッシュスパティーで、シャーリーの得意料理の一つ。……いつもより多めに食べてしまったのは言うまでもない。





 コーニッシュパスティーは名前のとおりコーンウォール地方の料理。ラードで練った厚めのパイ生地で、じゃがいも、牛肉、タマネギなどの具を包んでオーブンできつね色になるまで焼く。かなり食べ応えがある。無論、アーサー王の時代には無かった。





 コートを纏って倫敦の街を行く。
 オックスフォードストリートを西へ、士郎はオサレな店が立ち並ぶリージェントストリートへと足を向ける。
 ちなみに士郎の店があるベスナルグリーンロードは、日本でいう東京の下町浅草にあたる。浅草生まれの浅草育ちといえば多くの人が祭り好きの江戸っ子をイメージするように、ベスナルグリーン生まれのベスナルグリーン育ちといえばコックニーを喋るチャキチャキのべスッ子を倫敦の人たちは想像するのだ。

「うーん……」

 ショウウィンドウを見て周りながら、士郎は唸り声をあげた。
 まいった。本当にまいった。
 疎い疎いワカラナイ分からないとは思っていたが、まさかここまでとは思わなかった。目の前に並ぶ商品――衣類であったり、装飾品であったりするそれらの価値というか良さというか可愛さというかそのあたりのことがサッパリ分からない。皆目見当もつかない。
 士郎は軽い頭痛すら覚えていた。
 どうしてこんなものがこんなにするんだろう。これくらいだったら俺にも作れそうだけどなぁ……って、それは職人さんに失礼か。
  こんなのが流行っているのか。最近の若い人の趣味はまったく理解できないなぁ……って、俺もまだ若いんだけど。
 ちょ、な、なんだこれ!? これが下着!? 下着としての機能っていうか、こ、こんなの殆どハダカと同じじゃないか……っ!?

「って―――うぉ!?」

 苦悩の世界から一気に現実の世界に戻ってきて、士郎は素っ頓狂な声をあげてウィンドウから飛びのいた。
 ―――い、今のモノは一体何なんだ……!?
 鼓動が早くなっているのを感じながら、顔をあげて店の看板を窺う。そこには婦人下着専門店ウィンジョーンズという文字。

「び、吃驚した……」

 何時の間にかその店の前に居た。品定めに夢中になりすぎて全然気が付かなかった。
 まっ昼間から大の男が熱心に婦人下着を見つめ、急におかしな声を発して飛びのく―――不可抗力だったとはいえ、いったい何をやっているんだ、俺は。
 ウィンドウの向こうには申しわけ程度にレースがあしらってある”紐”としか形容できないような下着や、似たような下着が多数。
 こんなもの買うわけないし、買えるわけないし、ましてや女性にプレゼントなど言語道断。しかも相手は自分より一回りも歳の離れた少女だ。そんなことをすれば変態じゃないか……!

「―――あ」

 と、士郎はそこであることに気が付いた。
 周囲から自分に向けられている視線。
 それはまさしく、今自分が忌避した変態さんへ向けるものと同じ類のもの。
 そうだ。今の俺は周りの人にそんな風に見られてもしょうがない状況だ。女性の下着を熱心に見ていたかと思えば、突然素っ頓狂な声をあげて挙動不審――近くに警官が居なくて助かった。

「……っ」

 否、全然助かってない。警官とかそんなこと関係ない。

「―――」 

 走る。
 士郎は無言で走る。コートの襟で顔を隠すようにして、そそくさと逃げ出す。
 そんな士郎を見てひそひそと何事かを話し合う人やら、くすくすと笑う人やら、侮蔑の視線を向ける人やら。
 多種多様の視線を背中に集めながら、士郎は走る。
 一刻も早く立ち去りたい。というか寧ろ立ち去らないといけない。恥ずかしいというか情けない。穴があったら入りたい。というか寧ろ入らないといけない。
 
 ……あぁ、どうしてこんなことに。
 
 少し、泣きたかった。
 




 ウィンジョーンズ。ダイアナ・ウィン・ジョーンズ。
 代表作ハウルの動く城。イギリスの作家。





 ばいーんばいーんばいーん。

「―――っ! ―――っ!」

 ふかふかだ。やっぱりふかふか。ふかふかでもふもふで完璧だ。
 ―――すっかり癖になってしまいました。





 そんな具合でベッドのスプリングの寿命が順調にというか加速度的に縮まっているとはつゆ知らず、士郎はリージェントを後にしてからというもの、名前も知らぬ小さな商店街をあてもなくとぼとぼ歩きときたまウィンドウを眺めては溜息を吐き出し――

「お手上げだ」

 ――もうどうしていいか分からなくなってきていた。

「少し休憩するか……」

 士郎はいったん店巡りを中断して、小さな噴水がある広場のベンチに腰かけ、空を見上げて首をぐるんとまわした。慣れないことをした所為かボキボキと小気味よい音がなった。いい具合にこっている。
 深呼吸を一つして、改めて考えてみる。

 ……そもそも年頃の女の子が貰って喜びそうな物がどんな物なのか検討もつかない。
 せめて何が好きだとか少しでもいいからリサーチしてから買いにくればよかったと後悔しても遅い。一旦家に戻ってまた出直すという選択肢は却下だった。今日やると決めたからには今日やりたい。
 では何を贈る?

 花? 確かに彼女は花が好きだし貰って喜びそうだし、庭の手入れを楽しそうにやってくれているけれど、何か違う気がする。それに花と言っても沢山あって、どれを選べばいいか分からない。

 人形? 玩具? それらは流石に子供っぽい気がする。少女といっても普通ならもうハイスクールに入っている歳だ。さらにこれもどんなものを選べばいいか分からない――って、あぁ

「学校、か……」

 その言葉を思い浮かべ、言葉にして、士郎は妙な気分になった。何か、知っているのに知らないふりをしていた。とても大事なことなのに、後回しにしていた、そんな気分。
 ――日本でも彼女と同い年くらいで働いている人は大勢居るだろう。家庭の事情などで。
 だがしかし――そうは言っても、やはり学校には通うべきだと思う。学校でしか、若いうちでしか学べないことは数え切れないほど多い。ならば彼女も勉学に励んだ方が良いのではないか。 

「――」

 保証人や保護者が必要になる。自分がなればいい。それに遠坂やルヴィアやらに相談すれば、必ず力になってくれる。
 学費。何とかなる。貯蓄がある。レストランでの収益も二人で食い、生きるに十二分にある。

 もう一度空を見る。綺麗な色の小鳥が、ぎこちなく空を舞っている。まだ巣立ちして間もないのだろうか、それとも巣立ちのために飛行の訓練をしているのだろうか。

 思い返せば自分も穂群原学園には通わずに、働こうと思っていた。親父の遺産で生活するにも学費にも困らなかったが、夢を追うには、実現するためには早く自立することが何よりも大切だと思っていたからだ。
 だが、何と言うか…いや、その考えは俺の焦りが産んだ浅はかな若気のいたりだった。働くつもりだったコペンハーゲンの親父さんにも、雷画爺さんや藤ねぇにも、一成やらにも反対され、皆の強いすすめと説得説教のすえ、俺は考えを改めて穂群原学園に入学することにした。
 充実や、学んだことの大切さ。身についたモノの大きさ、輝き。かけがえのない三年間だった。

 ――沢山の大切な人に出会った。
 ――この世で一番大切なモノを手に入れた。永遠に色褪せることのないモノだ。思い出すもなく、それは常に俺の心の真ん中に在る。

 だから、その選択は絶対に間違っていなかった。最善だったのだ。皆に感謝している。大袈裟かもしれないけれど、辿ればあそこが俺の運命の分岐点だったとさえ思う。

 まぁ、なんにしても――

「本人の意思が一番なんだけれどな……」

 ――俺がそうだったから、シャーリーもそうだとは限らない。生まれも育った環境も考えも何もかも違う。頼れる人が居るか。居ないか。お金があるか。無いか。
 だから……あぁ、なんだ。結局。

「行くか」

 本人に聞いてみるのが一番なのだ。
 何が欲しいか。何がしたいか。何を望むのか。
 倫敦まで来て、そして七年以上も暮らし、今日は遠出してこれだ。歳だけくって、俺は殆ど成長しちゃいない。買い物さえ満足に出来ない。

 突然のプレゼントで吃驚させて喜んでもらう――なんて芸当、俺に出来るはずが無いのだ。素直にシャーリーの好きなものをプレゼントしよう。一緒に買いにいくのも良いかもしれない。学校の話もしよう。そして行きたいのであれば、援助してあげればいい。家族なのだから。

 士郎は立ち上がった。小鳥の鳴声が聞こえた。太陽の光がまぶしかった。歩き出す。ここまで来て何にも買わないのも癪なんで、ちょっとオーゼイユにでも寄り道しよう。何か掘り出し物があるかもしれない。





 オーゼイユストリートは少し普通ではない。
 いや、少しどころか思い切り普通ではない。何せ”普通”の人間はそれが存在していることさえ知らないのだ。

 人避け、人嫌い、人恨みなどの結界に守られた怪しげなストリート。澱んだ空気が漂い、昼でも夜でも薄い霧が立ち込め、時代遅れなオンボロな建物が軒並むオーゼイユにやって来る――やって来れるのは、魔術師だけだ。
 無論、店を出しているのも魔術師だけである。
 カエルの乾物に始まり、箒、絨毯、マントにコート、化粧品に薬品に、鍋に書物に鎧に宝石にアーティファクト。魔術に関するアイテムは大半がここで仕入れることが出来る。中立地帯であるので、教会の関係者も売買することが出来るが、好んで魔術協会の総本山のお膝元にやってくるような酔狂な輩は滅多に居ない。偶に頭のねじが緩いイカレタ神父がやって来て、自治会の魔術師とドンパチ繰り広げることもあったり、売っている物の中に使用者を呪い殺すフライ返しとか危険な物も混じっているが、基本的に死んでも自己責任だ。魔術師なんだから。ちなみにストリートの端にある公衆便所はぼっとん便所。昔昔お茶な魔法使いが作ったその便器の穴は、どこか別の世界の国会議事堂に繋がっているとかなんとかかんとか。

 ちなみに士郎は安土桃山時代に作られた名のある剣豪が使っていたという刀――妖刀と、乗りうつっている幽霊の気分によって髪型が変わるフランス人形を買いました。

「店に飾るのにちょうどいいかな……」

 売り上げ落ちるって。





「ただいま――んー、」

 今日も今日とていい匂いだな、と。
 玄関の戸を開けると同時に漂ってくる食欲をそそる美味そうな香り。
 気がつけば毎日それを楽しみにしている自分に苦笑しながら、士郎はコートをたたみながらキッチンへと向う。

「今日はランカシャー・ホットポットかぁ……」

 テーブルの上を見て、士郎はほぅ、と感嘆の息を漏らす。
 シャーリーの得意料理には、イギリスの家庭料理が多い。というより殆どである。漏れずランカシャー・ホットポットも伝統的なイギリスの家庭料理である。
 旨味がつまったクレーヴィーに、溶けるようなラム肉に、かりっと焼けたじゃが芋。付け合せのゆでたキャベツが彩りにも美しい。寒い冬のご馳走。
 オーブンで作るとはいえ煮込み料理。調理人の腕が顕著に現れる煮込み料理。それをシャーリーは見事に作る。

「う、うぅむ……」

 ――それが士郎は嬉しくて、少し複雑な気分。
 桜を思い出す。教え子が立派になっていくのは自称師匠としては悦ばしいことだが、抜かれるのはやはり寂しい。
 そして悔しい。これでもプロの料理人なんだよ、俺。まだシャーリーには抜かれていない……とは思うけれども。

(しかし――うん、店を手伝って……いやいや、待て待て。色んな意味で大変なことになるぞそれは。待て待て)

 そんなことを考えながら、手を洗って顔を洗ってうがいをしてがらがらぺっ、と。
 妖刀――マサヒデ――をとりあえずキッチン横の納戸にしまっておき、椅子に座ってさてそろそろかな――?

 どたどたどたどたんきゃっうぅ……むくりすたすたがたん!

「……これに慣れてきた自分が嫌だな」

 毎回女の子が転ぶというのは、ねぇ。
 頭を振りながら、入り口へと顔を向ける。だんだんと小さな足音が近づいてきて、

「すみません、私、また―――!」

 おでこんにちょこん、と小さな赤いはれをこしらえたシャーリーが黒い雑巾片手に顔を出した。
 よ、っと手をあげる。
 どうでもよくないけれど何故に毎日黒い雑巾なのだ。そんなに俺の家汚いのかなぁ……。

「っ、おかえりなさいませ、シロウさん」
「あぁ。ただいま、シャーリー。今日も遅くまで頑張ってくれたみたいだね」
「いえ、あの――」
「……?」
「あ、ぅ、なんでもないです……」

 まさかベッドのばいーんが面白くてつい○時間も、とはいえない。
 シャーリーは雑巾を後ろでにぱぱっとかくして、仄かに頬を染めて俯いた。明日からはせめて三十分に……じゃなくて、週に五回くらいに控えよう。うん。

「……ま、いいや。さ、雑巾をしまって手を洗ってきて。冷めないうちに夕食にしよう。……っと、服もかえた方が良いな」
「は、はい。直ぐに……!」

 ふわりとスカートを翻して扉の向こうへどたどたどた――!

「転ばないように気をつけるんだぞー……?」

 ばたん――きゃうっ!

「……」

 冷や汗垂らす。
 ……仕事は完璧に出来るんだけどなぁ。
 士郎はこめかみの辺りをぽりぽりと掻いて、立ち上がった。紅茶淹れよう。そうしよう。あと氷嚢を一個作っておこう。それがいい。うむ。





「うぁおっぅ!? こ、これ昨日と髪型違わないか!?」
「気のせいだろ」
「――」




 のろのろ続く。