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「おーい、言峰ー」

 弁当も忘れ、財布も忘れ、是を機会にキリスト教から絶食のあるイスラム教に改宗しようかなぁ――なーんて考えてた空腹絶頂絶後の昼休み。机に突っ伏して、目の前でニヤニヤ笑いながら弁当を貪る慎の字に毒電波を送っていたら、廊下側に近い席に座る……えーと、誰だっけ? クラスメイトA君に声をかけられた。

「なーにー?」

 多少言葉を交わしたことはあるが彼とは友達でも何でもない。だからといって知り合いでもない、と言い切ることは出来ない微妙な間柄なのだが、何か用だろうか。いや、用があるから声をかけたんだろうけどさ。
「お客さんだぞー、廊下で待ってる」
 と思ったら用があるのは彼じゃなくその客の方だった。

「はぁ? また遠坂のヤツか?」
「違うよ、遠坂さんじゃない。とにかくこっち来いよ」
 
 はてはて。遠坂じゃないとしたら誰だろうか。よっこいせぇー、と空腹で軽いんだか重いんだかよく分からないケツを上げる。動くと腹が減るが仕方ない。もしかしたら見知らぬ下級生が俺に告白しようと意を決してクラスまで来てくれたのかもしれんし。どこのエロゲーだそれ。
 ちなみにA君の言い方がちょっとキツイのはあれだ、遠坂の人気恐るべしというヤツだ。

「誰かな誰かな。学研のおばさんかなーっと」
「……」

 A君の睨みつけるような視線を受けながら教室を移動する。
 ……えーと、遠坂じゃないのに何で俺は睨まれてるんだ? もしかして本当に見知らぬ下級生しかも美少女の告白なのか――って、

「……何だよ、間桐ちゃんかよ」

 廊下に出る。瞬間肩を落とす。うっへりと溜息を吐いた。
 果たしてそこに居たのは、

「――っ! 何だとは何だ! せっかくボクが訪ねてきてあげたっていうのに、毎度毎度失礼なヤツだな、オマエは……」

 穂群原学園一もとい奇跡のボクッ娘、ミラクルボクッティアの異名を持つ間桐ちゃんこと間桐慎だった。本当に異名だ。
 間桐慎は俺の幼馴染で衛宮慎二の双子の妹だ。十年前のとある事件で両親と家を失った二人はそれぞれ別の家に引き取られた。慎の字は衛宮の家に。慎ちゃん――っと呼んでいたのは子供の時だけで、今は間桐ちゃん、は文字通り間桐の家に。そして俺は言峰の家に。

「へぇへぇ、そいつはスイマセンでした。で、何か用? あとこっちも毎度のことなんだけど慎の字に用があるんなら直接言って欲しいんだけど」
「何を馬鹿なコト言ってるんだ。ボクがあんなヘタレワカメに用があるわけがないだろ」

 ウェーブがかった長髪を揺らし、はん、と鼻で笑う間桐ちゃん。片手を腰に当てたその姿は傲岸不遜極まりない。そのうえ高飛車だ。背格好は中学生でも通用しそうなほどちまっこく、一応はジャニーズ系な慎の字の双子である彼女は顔は美少女と言って良いほどに整っているが、何処か幼さの残るロリータフェイスだ。だから迫力はあんまりない。胸もぺたんこだし。

 ――それにしてもワカメねぇ。

「……」
「……おい、何だよ。なにかヨコシマなモノを感じるぞ、その視線は」
「ロングワカメ」
「な――っ!?」

 髪質は吃驚するほどそっくりさ! さすが双子だね!
 なーんて笑ってられない。今のはタブーだ。言っちゃってから言うのもなんだけど、禁句だ。間桐ちゃんはそれを超絶気にしてるん、だけど。

「ば、馬鹿っ。ひどい、ひどいよ。ひどいよぅ。言わないって、言わないって約束なのに、ど、どうして、気にしてるのに……」

 うぅー、うぅー! と両手をじたばたさせて涙目で猛抗議。感情が昂ると精神年齢が約半分になるのが間桐ちゃんの固有スキルだ。万歳! 可愛いぞコラ!

「あやまれっ! ちかえっ! もう二度といわないって約束しろっ!」

 なみだ目でうがーっ、とまくし立てる間桐ちゃん。
 言い終わったあと、うぅー、と唇を屁の字に曲げて右手の小指をずずい、と突き出してきたのは多分あれだ。もう言わないって約束=指きりげんまんしろ、ということだと思うのだが、はてはて。見るのは楽しいけれど絡むとなると流石に恥しいんだけど。どうしたもんか。

「――」
「うぅー」

 間桐ちゃんは小指を突き出したまま上目遣いで俺を睨んでいる。
 言うまでもないが迫力はさっぱりない。ぶっちゃけ小学生高学年レベル。
 だがしかし……

「あー」

 ……うん。なんだかA君筆頭にクラスからの視線が刺すように痛いし誰かが「生徒会長呼んで来い!」「いや遠坂さんだ!」「むしろ警察だ! しょっぴいたれ!」とかふざけたことをぬかしているので、ここはげんまんは無理だが素直に謝っておこう。何時ものパターン。これ一番ね。

「プリチーワカメ、すまんかった。ほれほれ泣くな」
「だ、だれが泣いて……っ! そ、それにまたワカメって……! 馬鹿……泣いてないもん、ワカメじゃないもん……馬鹿、ひどい、何だよぅ……」
 
 ――せっかく久しぶりにお弁当作ってきてあげたのに。

 と。
 顔を真っ赤にして、ふるふる瞳を震わせながら、何か間桐ちゃんはかるーく致死量オーヴァーな台詞を呟いた。
 ……しかも呟いた後自分の台詞で我に返って、

「あ、いや――ちがう、違うっ! 違うに決まってるだろ! 直接渡すのは恥ずかしいから、これは、あの、だから弓道場の休憩スペースに置いて、いや、これは、その、たまたま朝おかずが余っちゃって、爺さんは食べないし、ボクはダイエット中だし……だ、だから残飯処理というか――!」

 なーんて、
 先ほど以上の慌てっぷりを発揮するものだから、俺は

「スマンカッター! げんまんにくまん何でもするからお弁当おいしく頂きますー頂かせてくださーい! うわぁぁぁぁ!」

 自分でも意識する暇もなく超音速で土下座してた。俺って超絶馬鹿かもしれねー! という後悔引っさげて地面に額擦り付けた。天の恵みだった。天使だった。天女だった。天啓だった。女神様だった。惚れた。抱いて。素敵! お許しをっ! と思わず足に縋りつくところだったぜちくしょう。次の人気投票では間桐慎に清き一票を!
 
「ふ、フン。分かれば良いんだよ、分かれば……じゃ、用事はそれだけだから。残したりしたら承知しないからね。容器は綺麗に洗って返すこと」

 いいな? と土下座している俺の目の前で早口に行って立ち去ろうとする間桐ちゃん、って。ちょっとまって。

「あれ? 指切りは?」
「――っ! 馬鹿っ! そんな恥しいコト出来るわけないだろ……! こ、子供じゃあるまいし!」
「いや、言い出したのは――」

 間桐ちゃんだし。っていうか子供だし。中身は。

「――間桐ちぐえっ」

 衝撃の真実!間桐慎に続く第二弾。実は三つ子で間桐ちぐえちゃんが――居るわけない。
 今のは間桐ちゃんが上げた俺の顔を踏んづけたのだ。ぎゅむ、と。まさか弁当の前に上靴の味を堪能するとは思わなかった。酷い。

「今何を言おうとしたんだ、何を……!」
「ダンデボバビバデン……」

 足をぺちぺちと叩いてタップしながら謝る。さり気無くタッチ。上級ワザ。無論キツイわけじゃない。寧ろ少し気持良く――なんかないよ。ないって。ないってば。ていうかそんなことよりめくれたスカートの裾から太腿の根元とパンツ見えてる。生足と縞ぱん見えてる。薄いパープルのストライプが全てまるっとすりっとお見通しだ!
 
 ――と。

「往来でなにやってんだオマエら……」

 後方からなにやら不機嫌まっさかりな声がかかる。そして突き刺さる侮蔑の視線――その二つだけから感じる雰囲気だけで鍛え抜かれた俺は人物判別可能である。つーか慎の字こと慎二だ。慎二。間桐慎の本当の兄貴の衛宮慎二。悪友ザベストオブマイライフ衛宮慎二。なんだそりゃ。今適当に考えました俺。

「帰りが遅いうえに騒ぎになってると思ったら……言峰、それに慎も。何やってるんだオマエら。TPOをというものをもう少しわきまえろよ、まったく」

 慎の字は俺が間桐ちゃんと一緒に居るととみに機嫌が悪い。そして相手が間桐ちゃん一人だともっと機嫌が悪くなる。というかデフォで相手を見下してる的な慎の字の対人接方がさらに辛辣になる。

「ダビッデ、ボデバベブビ……」
「何語だよ」
「ギババンゴ……」
「何?」

 まさか縞ぱん語だとは言えん。
 うーむ。もう少し縞ぱんフェスティバルを堪能していたかったが、慎の字の言うとおり流石にこれ以上は他のヤツラに迷惑だ。迷惑というか他のヤツラが俺に迷惑をかけてくる予感がヒシヒシだ。主に投石とか怨念とか。遠坂相手の時に比べたらマシだけど……顔の痛みも馬鹿にならないしな。あの細脚のどこにこんな力があるんだか。ったく。

「そい」

 するりと間桐ちゃんのおみ足の下から抜け出る。パパっと制服についた埃をはらったところで腹が鳴った。そういや空腹絶頂絶後だったよ……。

「……上靴はあれだな。未来の珍味だな。じゃなくて、慎の字よ、人の顔を踏みつけるたぁどんな教育受けてんだお前んとこの妹は」

 慎の字の方へ振り向く。わざとらしくじとっとした視線を向ける。

「お前が言うな。お前が。ていうか足跡付いてるぞ。あと慎がどんな教育受けてるかなんて僕が知るところじゃないだろ」
「毎度毎度間桐ちゃんには厳しいよなぁ、お前……。まぁいいけど。それとこれは勲章ってやつだ。直ぐ洗うけどな」
「しょうもない勲章だな……。それより言峰、お前昼飯どうするんだよ」
「いや、何か間桐ちゃんが弁当作ってくれたって。弓道場に置いてあるらしい」

 言いつつ間桐ちゃんを顎で指した。

「……へぇ。なるほどね」

 ――再びと。それまで厳しい表情だった慎の字の顔がニヤリといがむ。
 そしてニヤニヤってな三下笑いを浮かべながら、慎の字登場以来ずーうっと黙りっぱなしだった間桐ちゃんを脚から頭へ視線で舐めた。――親友に言うのもなんだが、少しムカついた。それはまるで性格の悪い女主人がメイドが隠し持っていた普通のレースのハンカチを見つけて、普通の人間なら咎めるはずもないそれをお前みたいな身分の人間が持つなんて驕らしい、卑しい、と嫌味を言うようなときのようなアレだったからだ。……どんなアレだ。昨日読んだ漫画の所為だな、この例えは。
 そんな慎の字の視線を受けては間桐ちゃんも黙ってはいられない。今までは見ようともしなかった慎の字を毅然と睨みつけて、言葉を吐き捨てた。

「……なんだよ」
「……いいや、何にも。お前も案外女っぽいところがあったんだなって思っただけさ」

 言い忘れていたが、慎の字が相手になると間桐ちゃんも機嫌が悪くなる。口調も悪くなる。ぶっちゃけ仲がとんでもなく悪いのだ。こいつらは。
 双子であるのにこの二人は火と水。水と油。犬と猿なのだ――悲しいことに。

「何、私に女っぽいところがあってお前に何か迷惑がかかるのかよ」
「かからないさ。寧ろ僕はわざわざ忠告してやってるんだよ。お前のそういうのが気に食わない連中も居るってコトをさ。こう見えても言峰はもてるからね……遠坂、柳洞、後藤、あげていけばキリが無いさ」
「……そんなにもてんがな。ていうかその三人の時点で既に違うだろ」

 たまらず喋りながら身体ごと間に割って入る。二人共に睨まれたが、気にしてられん。とりあえず喧嘩は止めねばいかん。

「喧嘩は止めろ。TPOをわきまえろよ二人とも。兄妹なんだからもっと仲良くしなさいこの野郎」
「「お前は関係ないだろ――!」」

 はもる二人。変なところでシンクロする二人は流石双子――って、

「――っ」
「――っ」

 うわ、気まず。何気に気まずい。二人とも苦虫を噛み殺したような顔して顔を背けちゃったよおいおい。
 ……あーもう。兄妹揃って手のかかるというか愛すべき馬鹿というかうっかりというか毎度というか、だから好きなんだがこの二人って俺は何言ってるんだいったい。収集つけよう。それがいい。

「……えーと、なんだ。とりあえず今この場所で喧嘩はするな。みっともないし、不利益だ。何の益体もない。うむ。その通り。握手しろとは言わんし仲直りしろとも言わないから」

 なっ、なっ、と肩を叩く。手荒く何すんだよと振り払われる、が、慎の字の方はそれから一度だけ間桐ちゃんの事を睨みつけはしたが、髪の毛をかきあげると、とくに捨て台詞や嫌味も無く――しかしやってられるかという雰囲気をかもしつつ蟹股でずんずんと教室に戻っていった。
 普段蟹股じゃないから歩きずらそうだったのがかっこわるいぞ友よ。
 ……これで一応喧嘩終了か。二人にとってみればきっと恒例行事みたいなもんなんだろうが、周りは気が疲れる。っていうか昔――それこそ、あのクソッタレ大災害が起こるまでは比翼の鳥の如く仲良しだったのになぁ。余談だが遠坂もあの時の方が素直でおしとやかだった気がする。うむ。そんなわけで俺はあの火事が憎くて仕方ないというわけだが、

「ふんっ。まったく嫌なヤツ……あんなのと自分が同じ血が少しでも流れていると思うと吐きそうだよ」
 そんな慎の字の後姿を睨み続けて、吐き捨てる間桐ちゃん。その声音には欠片の兄妹の親愛の情が無い。……それがたまらなく悲しく、少しムカつく。いつもいつも。
「言うなよ。あんなんでも間桐ちゃんの兄貴だろ。悪いところは沢山あるけどな、いいところだって沢山あるって」
「……いいところ? アイツに? 信じられないね、そんなの」
「そうか。それは気付いてないだけだと思うぞ。完全に嫌な野郎だったら、俺、友達してないって。
 ――それで、それは間桐ちゃんも同じだ。いいところ沢山あるからさ、俺はそれに気付いてるけど、慎の字は気がついてないと。そういうわけだ。ま、世の中気が付かないヤツの方が圧倒的に多いけどな」
「……そんなものなのか」
「そんなもんさ。親も他の馴染みもみんな死んじまってさ、この世で唯一の肉親なんだ。大事にしろよ。はっきり言ってな、俺は二人のこと羨ましいんだから」

 ――特に慎の字はな。だってよ、こんな可愛い妹が居るんだから――なんて、誰かに聞かれたら羞恥で死にそうなくらいこっ恥しいああこれ告白っぽくねぇかおいおいな台詞を吐きながら間桐ちゃんの頭をぽんぽんしてる俺は何だ。いや、言ってる事は本心なんだけどさ。いい加減教室から感じる負のオーラにちびりそうなんだうわー今日生きて帰れるかなぁというかこのままふけちまうか。どうせ弁当食いに行ったら五時限目には間に合いそうにないし。

「じゃ、俺弁当喰いに行ってくるわ。ありがとな。容器はちゃんと洗って返すから」

 最後に頭頂から耳へと間桐ちゃんの頭を撫でる。
 そしてそのまま振り向き、足早に立ち去ろうとして。

「およ?」

 ぐい、っと腕をつかまれた。

「間桐ちゃん? なにか――」

 用か? と言う暇もない。
 もしかしたら撫でたのが子供扱いしたみたいに取られて怒られるのか、と思った俺の意に反して。

「ボクもついてく」
「は? 何で」
「サボりたい気分なんだ。一人だったら暇だから、お弁当食べ終わったら相手しろ。っていうかお礼に今日はこのまま何処か遊びに連れてけ」
「はぁ、まぁ、良いけどさ……。とりあえず手を離して――」
「―ーイヤだ」
「ワッツ?」
「イヤだ。弓道場の場所忘れた。このまま先導しろ」
「ウソこけ。つーか歩きにくいって、離しやがりなさい」

 何なんだ。ともかく埒が開かないので、振り向いて手をはらおうとして――止めた。止めるだろ。そりゃ。寧ろずっとこのままも良いかもしれない。いや、ソレが良い。そうしなければならない。チンコぶらさげた生き物ならそうして然るべき断固として。
 だって、なぁ。

「……何だよ、ボクの顔に何かついてるのか」
「……目とか口とか鼻がついてるな」
「……面白くない」
「……俺もそう思った。あー、行くか。ちょいとした事情で早歩きするから、しっかり掴んどいてくれよ」

 ――泣きそうな顔。赤く染めて、目尻にうっすら溜まる涙。
 それが、悲しみからくるものじゃなくて、嬉しさとか、善の気持からくるものだって、一瞬で気がついちまったから。
 惚れるところだったぞこの野郎、じゃなくて、そうだな。弁当は喰わずに、持ってあそこに行こう。三人の思い出の場所。――悲しいことを思い出すだろうけど、同時に色褪せない、楽しい、幼い頃の記憶がある、あそこに。
 
 



・おまけ
 
「――言峰」
「何じゃい」
「オマエが兄貴だったら良かったのに、って思ってたけど、今は兄貴じゃなくて良かったって思ってるんだ」
「はぁ……、嬉しいのか嬉しくないのかよくわからんな」 
「っ、馬鹿! 喜べよ! 喜ぶところだろ、ここは!」
「いやいや、余計にわからん。なぜ怒る」
「そ、そりゃ、だって、だって……」
「だって何だよ」
「だ、だだだって、その……だから! あ、兄と妹だったら――」
「へぶしっ!」
「――」
「あ……ワリィ、花粉症気味なんだ、俺。で、だって何なんだ」
「知るかぁっ!」

 パチコーン!