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 にこり、と。とてつもなく邪悪な笑みをはっつけて、遠坂は呆然としている俺を見上げてくる。その遠坂の隣には、こちらもにやにやとあまりよろしくない笑みを浮かべる姉貴の姿。

「おはよう言峰君。昨夜はどうだった? 誰が出てきたの?」
「は?」

 珍しいツーショットだな……って待て、昨夜っていったい何のことだ。
 遠坂の言っていることはよく分からん。
 どうせ俺は遠坂の言葉を勝手に勘違いして、見当違いのことばっかり考えていたお間抜け野郎だ。
 そんな俺に遠坂の言っていることなんて分かるはずがないだろうけど―――っつーか、あれ?
 
 昨夜は誰が出てきたのか、と遠坂は聞いてきたのか―――?

「で、どうなのだ。士郎」
「どうなのよ、士郎」
「いや。あの……遠坂、昨夜って、なに?」
「あれ? おかしいわね。ちゃんとライダーを送っておいたんだけど」
「ちょっと待て。なんでそこでライダーが」

 俺がそう口にした途端――二人の笑みが、さらに邪悪で好奇心に満ちたものになった。
 例えるなら――そう、芸能人や友人間の色恋沙汰に興味津々な女子高生――っつーか遠坂は実際女子……ってこれは全く関係ない話か。

「ええ、ライダーはねその本人が望むような夢を見せる能力があるのよ。
 言峰君も男の子だから喜ぶと思って送っておいたんだけど、良い夢見れたでしょ?」

「お――――――」

 良い夢見れただろ、って、アレ、は。
 
「……っ!」

 現実としか思えないくらいリアルな夢を思い出して、カッと赤面するのが分かる。
 ついでに下半身―――は流石に堪えた。

「ア、アレはテメェの仕業か―――!!!」

 にんまり、と遠坂と姉貴が笑う。
 ―――しまった。
 黙っていりゃあこんな話題は直ぐに終わったってのに、態々自分で認めるなんて、俺は超絶馬鹿の微笑みデブか―――!?

「なによ、やっぱり届いてたんじゃない。ふーん。それで、誰が出てきたのよ? やっぱりセイバー?」
「な、このバカ! せ、セイバーのはずがあるかっ! お前、俺を何だと思ってるんだ! 彼女が好きなのは”言峰”士郎じゃなくて”衛宮”士郎で―――あぁ、このへんはややこしいけど、とにかく彼女の気持ちをそんなことに利用するほどゲスじゃないぞ、俺は!」
「その割には何時も何時も何かにつけて一緒に居ることが多いようだがな」
「そ、それは―――セイバーが近くに居ないと護るのに不都合だって言うし、俺が別にいい、って言ってもセイバーの方からだな……!」
「ムキになってるところが怪しいわよ、言峰君。いいから白状しなさいよ」
「そうだぞ士郎。男の子なら潔いところを見せろ」

 下から、横から。さも楽しそうに二人は見上げてくる。

「だから! 違うって言ってるだろ! 断じてセイバーじゃない!」
「―――ふむ。ならば凛か?」

 二人の波状攻撃に息も絶え絶えで、あぁ、糞。なんで朝っぱらかこんな目にあわなきゃならんのだ。俺は。っつーかセイバーが睡眠中で本当に良かったぜ畜生―――と思って目を逸らしたところに姉貴がさも楽しそうに口を出す。

「な、ちょっと、何言ってるのよ。私のはずあるわけないじゃないっ!」

 さっきまでの邪悪な笑みはどこへやら。
 ぐわー! と凄い勢いで姉貴の肩をばしんばしんと連打しながら否定する遠坂。

「は―――。どうした? 何をそんなに慌てておる。顔が赤いぞ、凛?」、
「じょ、冗談じゃないわよ。なんで私が言峰君と……!」
「私が? 選ぶのは士郎であろう。どうしてここでそのような台詞が出てくるのだ。え、遠坂凛よ」
「だから―――! あぁ、もう! 初めは言峰君をからかって―――ってそうよ、言峰君からこの金ぴかにガツンと言ってよ!」

 よほど遠坂をからかうのが楽しいのか、姉貴はすこぶる機嫌が良い。金ぴか、という言葉に反応しなかったのは初めてじゃねーだろうか。
 反面、遠坂はこういったことには馴れてないようでテンパってる。
 見てるこっちが気の毒なくらい慌てふためいて―――っつーか巧い具合にこのまま話が逸れて有耶無耶になることを期待してたのに……くそったれが、あの野郎何でそこで俺の名前を出すんだ。
 
「ねぇ、言ってよ。ほら言峰君!」

 それにガツンと言ってくれ、と言われてもなぁ―――

「…………」

 ―――その、なんつーか、非常に困る。

「え―――?」

 顔を背けて黙りこくった俺を見て、今しがたの騒ぎはどこえやら。
 姉貴と遠坂の様子がガラリと変わった。

「…………」
「…………」
「…………」

 それをきっかけに三人とも黙ってしまい、変な沈黙が訪れる。
 俺ははてさてどうしたもんかい、と思案の表情で。姉貴は目を見開いて信じられん、といった驚きの表情で。遠坂は―――

「…………」

 何だかとてもらしくない様子で―――顔を完熟したトマトみたいに赤くして、もじもじして、どことなく眼を潤まして、ちらちらとこちらを窺ってくる。
 やがてそんな自分に耐え切れなくなったのか、遠坂が聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で沈黙を破った。

「その、本当に私なの……」

 呟きながらそっと俺の顔を覗き込んでくる。
 目と目が合う。姉貴が、そんな俺たちの様子を―――何故か、辛そうな表情で固唾を呑んで見つめている。
 
「……ねぇ、士郎」

 遠坂の顔が近づいてくる。息と息が重なるほどの距離に。
 
「―――遠坂」

 視界いっぱいに広がる遠坂の顔。

「…………ッ」

 名を呼ばれ、ぴくんと肩を震わせる遠坂に向けて、俺は―――

「安心しろ。お前じゃない。いつも言ってるだろ、俺、ひんぬー趣味じゃないって」

 ―――いつもいつもそのコトを気にしているのを可哀そうなほど知っているから、非情に言い辛かったが―――それでも幼馴染の友情で本人の望みどおりガツンと言った。
 出来うる限り精一杯の作り笑顔で。

「…………」

 俺の言葉を聞いて固まる遠坂。
 目の錯覚か、はたまた新手の魔術か何かか。その体から色素が抜けていく。

「…………」

 あれよこれよ。数秒で遠坂は真っ白になった。

「ふ―――ははは、ははははは…………っ! なに、良かったではないか。士郎に想われるなど冗談じゃない、のだろう? 凛。胸が貧相で助かったな! はは、ふふふっ、ふふははは―――っ!」

 先ほどの辛そうな表情はどこへやら。
 姉貴は目尻に涙を溜めて爆笑しながら床を転げまわる―――もんだから、スカートが捲くれて中が見える訳で。

「…………っ!」

 完全なる不意打ちだ。昨日のことを嫌っていうくらい鮮明に思い出して、俺はぺたり、と掌で自分の顔を覆った。

「ふふふ、はははは―――っ!」

 そんな俺と―――白い体に影を背負い、部屋の隅に体育座りして「ふんだ。どうせ私なんて。どうせ私なんて……」と呟きながら床にのの字を書き始めた遠坂などお構い無しに姉貴は尚も笑い転げる。
 転げるたびに我侭に胸をたゆんたゆん揺らし、我侭にパンモロをかまし、我侭に足タレもかくやという見事な脚線の足をばたばたさせる。

 ……酷い、酷い、酷すぎる拷問だ。
 姉貴から目を逸らしたいのに逸らせない。逸らせないから昨日のコトをより鮮明に思い出し思い出しして、健全な俺の精神が崩れ去っていく。

 だというのに、姉貴は笑いがおさまればおさまればで、

「はっ、は―――ふぅ……で、士郎。結局誰が出てきたのだ。あの蛇女か?」

 なーなー、と。顔に手を当てて俯いてる俺をがっちりとヘッドロックして―――笑いまくった所為で薄っすらと上気してる顔と体で、しつこく聞いてくる。

「おい。いい加減教えぬか。貴様と誰が良い夢を見たかぐらい、余に教えても別に構わぬだろう」

 言って、興味本位の子供みたいな顔で、姉貴はぐりぐりと頭を締め付け、ぷにぷにと頬っぺたを突っついてくる。たぶん無意識なんだろうけれど、胸も押し付けてくる。

「おい、士郎。黙っていずに教えよ」

 顔を覆っている俺の手を引っぺがして、上から覗き込んでくる。
 
 ―――あぁ、畜生。ジーザス。
 もう、これ以上は限界だ。


「……姉貴」

 躊躇いがちに、小さく口にした。


「―――は? 余がどうかしたのか?」
「馬鹿! 二回も言わせるな。だから、出てきたのは姉貴だって言ってんだよ!」

 もうどうにでもなれだ。
 目を逸らすどころか、真っ直ぐに見つめ返して怒鳴る。
 きょとん、と姉貴は目を点にした。

「姉貴って、余の、ことか……?」
「そうだよ。何の冗談か、姉貴が出てきて―――」

 力が緩んでいる姉貴の腕から抜け出して、そのまま後ろから抱きすくめた。

「―――その、それ以上は分かるだろ。こうすりゃ」

 流石に小さな声で言う。
 姉貴は、

「…………」

 なにも言わず、ただ耳やら首筋やらを真っ赤にして俺の腕の中で縮こまる。

「…………」
「…………」

 それが、どういう言葉を代弁しての行動だったかは分からない。
 勢いで抱きすくめてしまったものの、こここからどうすりゃいいか分からない。
 何を言っていいかさえ分からない。
 姉貴も同じなのか、二人とも黙ったままの……酷く妙な雰囲気の沈黙が続いた。

 ……。
 …………。
 ……………………。
 …………………………………………。
 ……………………………………………………たわけ。
 ―――それならば初めからそう言わぬか―――

 ぼそり、と。そう呟いて、姉貴は体の力を抜いて俺にもたれかかってきた。
 こうして近づかないと分からない。見た目よりずっと細い、姉貴の肩。
 俺は抱きすくめる力を少しだけ強くして―――そこにこてん、と顎を乗せた。
 
 おい、くすぐったいぞ、と姉貴が呟いた。
 部屋の隅で遠坂が山崎ハコの呪いを口ずさみながら、わら人形に釘を打っていた。




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