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 ――英雄王に我は、なる!

 ギルピース 第141話”正義の味方”



「誰だい、君は?」

 焼け野原。
 木々の煤に埋もれるようにして、血だらけの子供が倒れていた。
 息も絶え絶え。致命にいたる傷を負っていると、一目で理解る。

「剣で斬られたのかい……? ひどい出血だ。早く止血をしないと死んでしまうよ」
「……っ!」

 ギロリ、と子供は男をにらみつけた。
 歯を食いしばり、血がはいった目を開けて、漏れそうになる苦痛の呻きを飲み込んで。

「そう睨まなくて大丈夫さ。君を助けてあげよう」

 優しい言葉とともに、ゆっくりと歩みよる男。
 ――子供の脳裏に、悪夢が……いや、忌まわしい記憶が蘇る。 

『化物だ! 撃ち殺せ!』
『犠牲者が出る前に殺すんだ!』

「ところで君は何者なんだい。子供なのに、どうしてこんなところに一人で……。それもこんな大怪我をして」

『逃すな! 追い詰めろ!!』

「……そうか。最近噂の剣を生やしたの化物っていうのは……」

『駄目だ! 剣も銃も効かない! 爆弾だ! いや、殴り殺せ!』

「ちょうど……そうだ、三日前に死人でも何でも治せる魔術を編み出したところなんだ。君は運が良いね」

 子供のそばで膝をつき、男は持っていたトランクを開けた。
 その拍子に、コートの懐に忍ばせていた銃がぽとりと地面に落ちる。

「――っ!!」

 子供が立ち上がる。
 どこにそんな力が残っていたのか、自分でもわからない。
 それでも、渾身の力を振り絞る。
 ――殺されると思った。男にそんな気はさらさら無かったが、子供にはそんなことは分からなかった。銃とは、自分を痛みつける兇器だ。それを持っているこいつも、自分に害をなす人間だ。
 だから、生きるために立ちあがった。力を振り絞った。
 無我夢中で力をこめる。右手の掌を突き破るようにして、身体から生えてくる鋼鉄の、歪な、剣、いや、棒。

「うおおおおっ!」
「っ!?」

 殴りつける。
 男の顔を、腹を、殴る。殴る。

「おおおおっ! うわぁぁぁぁっ!!」
「――!?」

 左手の肘を突き破る鋼鉄の剣。
 鈍らすぎて、殆ど棒に近い、剣。切れ味もなにもない。鈍器の如くそれを振り回し、子供は男を殴り倒す。

『何だ! 自分から倒れたぞ!?』
『馬鹿が! 自分の剣で自分の身体を切り裂きやがった!!』
「あああああああああああああ――っ!!!」
 ゴガン!




 
 ――そうして、男は動かなくなった。
 子供はそれを確認してから、のろのろと歩き出した。
 灰色の空から、雨が降っている。冷たい冷たい雨だ。。手足が凍てついて、刺すように痛む。身体が芯から冷え切って、今にも心臓が止まってしまいそうだ。
 それでも、歩く。
 死にたくなかった。
 生まれたときから、実の親にも化物だと見離された。
 何も無いところ――無から何かを生み出す子供の特異な力。
 身体から剣を生やす、異様な体質。
 感情が昂ると、まるで剣のように、鋼鉄のように、硬質になる皮膚。
 鉛色の瞳。銀色の髪の毛。くすんだ褐色の肌。
 全てが普通の人間とはかけ離れたモノだった。――だから、捨てられた。
「……」
 歯のねがかち合わない。
 ガチガチと早いリズムで音が鳴る。
 傷から血が溢れ出す。どす黒い血は、何かの病に犯されているワケではない。沸々と泡を立たせる血液。融けた鉄のようなそれは、まさに剣となる、融けた鋼鉄なのだ。
 やがて固まり、止まるだろう。
 けれど量を流しすぎた。どれだけ異質でも、子供は人間に違いないのだ。手当てをしなければ、時を置かずして死に至るだろう。
 人間なのだから、死ぬ。当たり前のこと。
 人間だから、子供は生きたいと思う。――当たり前のこと。
 家族の温もりが、仲間の友情が。火の暖かみとは違う、心の温もりが欲しかった。
 子供はずっとずっとそれを探してた。探して、探して、けれど見つけられずに、見つける機会さえ与えられずに、一方的に見放されて、死に体まで落ちた。
「――あのクソガキが……ふざけてくれたもんだ……!」
 普段は使わない汚い言葉を吐きつつ、男は上体を起こした。
 よろめく身体。がんがんと痛み、揺れる頭。
 ぎりりと歯を食いしばり、のろのろと離れていく子供の後姿を睨みつけて、心の底から搾り出すように言葉を吐く。
「僕を誰だと思っているんだ……っ!」
 男がコートを脱ぐ。





「おいっ! 待ってくれ!!」
 叫び声を聞いた。
 もう二度と聞くことはないと思っていた男の声に、思わず子供は振り向いた。
「僕は決して、君を撃たない!」

 凍てつく雨と風の中、がたがたと身体を震えさせながら、その男はなおも叫んだ。
 ――全裸でだ。
 頭がオカシイんじゃないかと、子供は驚きつつも思った。
 けれどそれは間違いだった。

「僕の名前はエミヤキリツグ!」

 幼心でも、直ぐに悟る。
 男が全裸になったのは、誠実さと真剣さの証明だったのだ。
 決して自分に危害を加えるつもりはない。殴られた仕返しをするわけでもない。
 ただ、ケガをした自分を助けたい――その一心なのだと。

「正義の、味方だ!!」

 ドドン!




 なんだこれ