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英国新妻物語エレノア


◇◇◇


 ウィリアムさま。

 言ってしまってから、エレノアはあっ、と口元を押さえた。
「もう、いいんですよ」
 さまはもう要らないんですよ? とウィリアムは自分の膝の上に座るエレノアに微笑んだ。
 かぁっと顔に血が上ってきた。
 恥しい。私ったら、まただ。
 エレノアはウィリアムの顔を見ていられなくなって、顔を俯けた。膝の上に載せていた手をきゅっと握りしめる。
「……ごめんなさい。お慕いしていたときの癖で。それに、まだ何だか実感が湧かなくて」
 レディ・ジョーンズ。そう呼ばれるようになって、まだ一週間。
 想像は何度もした。プロポーズをされてから、毎日のように。心の準備もきちんとしてきた――と、思っていたのに。
 だめだ。だめ、ぜんぜんだめ。
 アニーや鏡を相手に練習だってした。
 でも、まるで背中に羽があるかのように、身体も心もふわふわしてしまって、何もかもが上手にできない。現実感がなくて、毎日が夢の中みたい。
 今だってそうだ。本当は身体を全部預けてしまいたいのに、どうしても要らない力が入ってしまって、あちこちが強張っている。
 重たくないかしら? 髪の毛は? お化粧は? 服は? 香水は? 何か喋らないと。
 おまけに色んなことが頭の中をぐるぐると駆け巡る。そんなことを考えれば考えるほど、また身体に力が入ってしまう。ちゃんと上手に、立派に、恥しくないように、素敵な奥様にならないといけないのに。
「心配しなくていいんですよ?」
 そんなエレノアの胸中を察したかのように、ウィリアムが声をかけた。
「何も心配しなくていいんです。ゆっくりと一つずつ、二人で片付けていきましょう。……それに正直、僕の方もまだ現実感がなくて。喋り方もこんなに堅苦しいままだ」
 苦笑するウィリアムの声が、あんまりにも優しかったから、エレノアは思わず顔をあげた。
 目と目が合う。綺麗な灰色の瞳。その中に自分を見つける。
 エレノアは思い出す。確か、そう。はじめてエスコートしてくださったときも、言ってくださった。何も心配することはないんですよ、って。
「それでしたら、おあいこですわね」
「ええ、おあいこです」
 二人して微笑み合う。
 そうだ。心配しなくていいんだ。このひとは、いつも優しくて、面白くて、強くて、私をきっと、ずっと守ってくださる。だから、心配しなくていい。このひとが一緒なら。
 ――私達は、夫婦なんだ。
 エレノアは自分の身体か要らない力が抜けていくのが分かった。
 ふっと身体が軽くなる。今まではよく分からなかった、ウィリアムの香水の匂いや、体温が、身体の逞しさが、鮮明に感じられるようになった。


つづくわけねーだろ!